哲学者の小川洋さんとの対談

長尾本日は哲学者の小川洋さんをお迎えし、お話を伺います。小川さんは、実は私の伊藤忠商事時代の同期でいらっしゃいます。本日はよろしくお願いいたします。

小川ありがとうございます。面白い取り組みを始められたと伺い、ぜひ私も勉強させていただきたいと思い、本日はお邪魔いたしました。現在取り組んでいらっしゃる活動の概要を簡単にお聞かせいただけますでしょうか。

長尾はい。私たちは「社会人インターン」というものに取り組んでいます。インターンというと、どうしても大学生をイメージしがちですが、社会人向けのインターンがあっても良いのではないかと考えたのです。今は人生100年時代と言われていますし、セカンドキャリア、サードキャリアといった、いわばキャリアの二毛作、三毛作が求められる時代です。私自身、現在50歳ですが、仮にあと25年働くとしても、大学卒業からのキャリアで言えばまだ半分に過ぎません。ですから、一度立ち止まってこれまでのキャリアを振り返り、セカンドキャリアを考える良い機会なのではないかと思いました。しかし、これまでの経験だけを頼りにいきなり転職しようとしても、受け入れ先を見つけるのが難しいという現実もあります。

そこで、例えば現在企業に勤めている方であれば出向、すでに退職されている方であれば業務委託といった形で、一定期間、実際に企業で一緒に働いてみるのです。そうすることで、様々な側面が見えてきますし、お互いに学び合うこともできます。このような期間を経てから実際の転職に進むという流れがないと、人材の流動化はなかなか進みませんし、本当の意味でのセカンドキャリア構築は難しいのではないかと感じています。日本はまだ人材の流動性が低いのが現状ですので、こうした社会人インターンが、流動化を促進する一つの機能として役立つのではないか、という思いからこの取り組みを始めました。

小川それは本当に素晴らしい試みだと思います。私は大学で学生の就職活動指導をしていますが、昔はインターンシップがあまり普及しておらず、企業の名前だけで就職先を決めてしまい、入社後に「こんなはずではなかった」と早期に退職してしまうケースも少なくありませんでした。イメージ先行で就職活動が進みがちでしたが、インターンシップの普及により、企業と学生のミスマッチはかなり減ってきたように感じます。特に近年、企業側もインターンシップを重視する傾向にあります。よく考えてみれば、これは再就職においても同様に必要なプロセスのはずです。

にもかかわらず、再就職の際にはそうした機会がほとんどありませんでした。まさにコロンブスの卵のような発想だと感じました。それと同時に、この仕組みが素晴らしいと感じるのは、企業側と働く側、お互いにとって「とりあえずやってみる」という試行錯誤が可能になる点です。これは変化の激しい現代において、最も求められる姿勢ではないでしょうか。特に経験豊富な年配の方であれば、実際に少し働いてみて「これは自分には合わないな」と判断することも容易です。新卒採用とは異なり、インターン期間中に考えが変わったとしても大きな問題にはなりにくいでしょう。一度正規に就職してしまうと方向転換は大変ですが、インターンシップという期間を利用して適性を見極められるというのは、今の時代において非常に重要なことだと思います。

長尾私たちも、もっと気軽に試せる機会が必要だと考えています。例えば、子供向けの職業体験施設のように、興味のある分野で実際に働いてみる体験は、大人にとっても非常に価値があるのではないでしょうか。私たちが以前在籍していた会社もそうでしたが、日本の企業研修は座学中心のものが非常に多い傾向にあります。しかし、研修という観点から見ても、実際に現場で体験してみるのとでは、得られるものが大きく異なります。こうした実践的な学びの機会を、もっと日本でも取り入れても良いのではないか、というのが私たちの基本的な考えです。

小川今「日本でも」とおっしゃった点が重要だと感じます。例えばアメリカでは、物事の基本的な発想として「とりあえずやってみて、うまくいけばそれで良いし、駄目なら修正すれば良い」という考え方が根付いています。これは仕事に関しても同様です。哲学の世界では、これを「プラグマティズム」という言葉で表現します。しばしば「実用主義」と訳されますが、アメリカ固有の思想であるため、哲学分野ではカタカナで「プラグマティズム」と表記されることが多いです。要するに、まず実践してみて、うまくいかなければ改善を重ねながら前進していくという発想であり、最初に厳格な原理原則があって「こうでなければならない」と考えるのとは逆のアプローチです。非常にアメリカらしい考え方と言えるでしょう。

長尾そうですね。

小川アメリカという国は、まさにそうした思想によって、何もないところから今日の発展を築き上げてきました。ですから、雇用に関しても同様の発想があり、例えば1年契約といった形態も一般的です。日本人から見ると不安定に感じるかもしれませんが、彼らにとっては柔軟に変更できる点がメリットなのです。一方で、日本人はこの点に関して、良く言えば慎重であり、「少し試してみて、駄目だったら変えれば良い」という考え方にはなかなかなりにくい。その気持ちもよく理解できます。就職してすぐに辞めて別の会社に移るとなると、「あの人は長続きしない人だ」というレッテルを貼られるのではないか、あるいは辞められた会社にとってもマイナスイメージになるのではないか、といった懸念が生じがちです。そこをうまく、繋ぐ役割を果たすのが、この「大人のインターンシップ」なのだと思います。

長尾おっしゃる通りですね。

小川ですから、ある意味ではグローバルスタンダードに近い考え方と言えるかもしれませんね。

長尾そうですね。

小川私が思うのは、こうした「大人のインターンシップ」のような発想は、もっと様々な分野で活かしていくことで、さらにビジネスの可能性が広がるのではないかと感じます。現在は事業を開始され、様々な検証をされている段階だと思いますが、これからはまさに、多様な形でのインターンシップが求められる時代になるでしょう。その先駆けとなる取り組みですね。既に実際に始められているのですよね?

長尾はい、6月から開始しています。

小川活動場所はどちらですか?

長尾基本的には東京で活動していますが、最近、広島県福山市から、地方企業でのインターンシップを実施していただけないかという依頼を受けました。東京在住の方が地方でインターンシップを行う、あるいは広島県外から高度な人材を集めたいというニーズがあるようです。地方企業も優秀な人材を求めているのですが、なかなか獲得が難しいのが現状です。というのも、現在の日本の仕組みでは、大学を卒業した優秀な人材の多くが大企業に集中してしまう傾向があるからです。

私たちの視点から見ると、優秀な人材は数多く存在しており、そうした方々がもっと地方企業やスタートアップで活躍するようになれば、日本全体の労働生産性も向上するのではないかと考えています。しかし、現状ではまだそうなっていません。地方企業やスタートアップに対する理解が、大企業の経営層や社員、そして転職を考える当事者も含めて、まだ十分に進んでいないと感じています。「地方企業とは?」「スタートアップとは?」といった基本的な認識の部分からです。オープンイノベーションという言葉は聞かれますが、大企業と地方企業・スタートアップとの連携や人材交流はまだ限定的であるというのが、私の実感です。

小川なるほど。

長尾こうした状況を少しでも改善するためには、いきなり転職するのではなく、まずはお互いを知るための、いわば「お見合い期間」として、一定期間のインターンシップが必要なのではないでしょうか。そういう意味で、インターンは非常に重要だと考えています。

小川今のお話を伺っていて、非常に重要な視点だと感じたのは、「地方で働く」ということそのものです。優秀な人材は、確かにおっしゃる通り、これまでは東京一極集中の中で、首都圏に集まっていました。しかし、地方には様々な可能性が眠っています。私自身、現在山口県に住んでいますが、それ以前はずっと都市部で暮らしており、30代半ばで初めて地方に移住して、色々と感じることがありました。地方には魅力がたくさんある一方で、それを活かし、地域を活性化させていくためのノウハウや経験を持つ人材が圧倒的に不足しているのです。そうした人材が、どんどん地方に転職してきてくれるかというと、そこがやはり難しい点です。

何が障壁になっているかというと、一つは「不安」ではないでしょうか。セカンドキャリアとして地方へ移住し、転職する際、IターンやUターンなど様々なケースがありますが、やはり見知らぬ土地に対する不安は大きいものです。特に、同じ県内であっても市町村が違えば風土が全く異なることもあります。そうした点について、インターンシップを利用して実際にその土地に住み、働いてみることで、「ここの地域の人たちはこういう雰囲気なのか」「自分に合いそうだ」あるいは「少し違うかもしれない」といったことを肌で感じることができます。事前にそれを試せるというのは、これまで地方で働く際に大きな課題となっていた問題を解決する糸口になるのではないでしょうか。

長尾私たちも、仕事内容はもちろん重要ですが、地方で働く上では、その土地の環境や地域コミュニティとの関わりも非常に大切だと考えています。そうした部分に実際に触れてみないと、不安は解消されないでしょう。そのため、私たちも現地の商工会議所や企業と連携し、地域の情報を把握しながら、実際にインターンシップに参加していただく際には、単に仕事をするだけでなく、例えば福山市であれば、その地域の魅力を体験できるようなオプションプログラムを用意するなど、工夫を凝らしています。やはり、その土地で働くこと自体の魅力、つまり地域全体の魅力が伝わらないと、最終的な転職には繋がりにくいと考えています。

小川そうですね。働くということは、単に会社にいる時間だけでなく、休日も含めた生活全体に関わることですから。その土地での生活全体を理解した上で移住を決める、ということは非常に重要ですね。

そうしたことを考えるとき、私がいつも思うのは、どんな場所にも必ず魅力があるということです。どんな地方、どんな辺鄙な場所であってもです。これは文化人類学者のレヴィ=ストロースなども指摘していますが、どのような場所であれ、そこには固有の歴史があり、何らかの出来事が積み重ねられてきたはずなのです。私たちが知らないだけで、歴史的に見れば、全ての場所には何らかの意味があります。だからこそ文化人類学者は、誰も足を踏み入れないような場所や、一見何の変哲もない場所を調査するわけです。そして、そこから何かを発見する。その逆転の発想で、私は、どんな場所であっても、私たち自身の関わり方次第で、素晴らしい魅力を引き出すことができるのではないかと考えています。

そうした視点で地域に関わることに挑戦すると考えれば、これは非常にやりがいのあることではないでしょうか。転職してくる人やインターンシップに参加する人たちにとっても、自分自身の可能性を試す機会であると同時に、その土地の潜在的な魅力を引き出す試みにもなり得ます。ですから、そういった意味でも、今回プロキャリアさんが取り組んでいらっしゃることは、地方活性化にとって非常に大きなプラスになるのではないかと期待しています。まだまだこれからが楽しみですね。(笑)

そして、先ほどもお話にあったように、働くことは生活全体に関わります。その土地を本当に好きになれるか、地域の人々と良い関係を築けるか。そう考えると、働き方というものを考える際に、これまでとは違った、より広い視点が求められるのではないでしょうか。私たち自身も、もっと広い視野で働き方を捉え直す必要があると感じます。

冒頭でお話があったように、人生100年時代と言われ、働き方改革も叫ばれて久しいです。そして奇しくも、新型コロナウイルスの影響によって、こうした変化が加速されたり、あるいは変容したりしている側面もあります。そうした状況の中で、私たちは今、「働く」ということをどのように捉え直していくべきなのでしょうか。そのあたりについて、長尾さんから何かヒントをいただければと思いますが、現在、働き方に関してどのような変化が求められているとお考えですか?

長尾新型コロナウイルスの影響で、私たちもそうですが、会議のほとんどがZoomなどオンラインで行われるようになりました。これまでは、地方企業への転職活動というと、現地に足を運んで対面で面接を受けるのが一般的でした。そのため、東京などの都市部に住む人材が、地方での転職活動を行うことには、時間的・費用的な制約がありました。しかし、コロナ禍を経て、面接なども対面だけでなくZoomなどオンラインで実施可能になったことで、そのハードルが下がりました。

私たちとしては、オンラインでの接点に加えて、現地でのリアルなインターンシップ体験を組み合わせることで、より効果的にマッチングを進めることができると考えています。こうした変化により、可能性は大きく広がっています。また、働き方そのものについても、様々な方とお話しする中で感じる変化があります。これまでは、地方企業に転職するとなると、完全な移住が前提となるケースが多かったと思います。移住促進については、政府や自治体も長年取り組んできましたが、必ずしも大きな成果には繋がっていませんでした。しかし、現在の状況は、逆に見方を変えるチャンスでもあります。

オンラインツールを活用すれば、例えば東京に住み続けながら、基本的な業務はオンラインで行い、必要に応じて出張ベースで地方の拠点に行く、といった働き方も可能です。こうした形で地方企業との関わりが生まれれば、「関係人口」が増加し、地方経済の活性化にも繋がります。働き手にとっても、完全移住を伴う正社員だけでなく、副業や、オンライン中心の業務委託など、働き方の選択肢は多様化しています。こうした多様な働き方について、地方企業の経営者の方々にもご理解いただけると、より多くのマッチングが生まれるのではないかと考えています。

小川私も最近、東京の企業で働きながら、副業として地方企業の業務をZoomなどを通じてサポートしている、といった事例を記事などで目にしました。今、長尾さんがお話しされたことを総合的に考えると、現在の働き方における大きな変化というのは、やはり「会社本位」から「自分本位」へ、あるいは「社会の常識」から「個人の価値観」へと、軸足がシフトしていることではないでしょうか。私たちの世代は、若い頃はとにかく会社に尽くすという意識で働いてきましたし、社会全体を見ても、まだそうした風潮が根強く残っています。

しかし、現在の変化は、そうした従来のあり方を大きく変えようとしています。テレワークの普及もそうですし、必要な時だけ出張し、基本的には自宅で働くといったスタイルも、自分の生活を重視しながら仕事ができるという側面を持っています。副業も同様で、自分のやりたいことや得意なことを軸に、複数の仕事を組み合わせてキャリアを設計していくという考え方です。人生100年時代においては、終身雇用という考え方ではなく、生涯で何度か仕事を変えることが当たり前になっていくでしょう。これは、単にA社、B社、C社と勤め先を変えるということではなく、自分自身の人生設計に基づいて、その時々で最適な仕事を選び取っていくということです。そのプロセスの中には、今回のようなインターンシップもあれば、社会人になってからの留学といった選択肢もあるでしょう。

こうした変化を、いかに前向きに捉え、活かしていくか。それが非常に重要になってくると思います。ただ、そうした中で、私たちのような50代の世代については、どうでしょうか。妙に経験があって理屈っぽく、扱いにくいのではないかと敬遠されてしまう、といった問題はありませんか。

長尾その問題は非常に大きいですね。私たちも現在、インターンシップ希望者と企業とのマッチングを進めようと試みていますが、やはり書類選考の段階で、応募者が50代であると分かると、企業側が「50代ですか…」と、難色を示すケースが少なくありません。

小川こんなに元気なのに!(笑)

長尾そうなんです。しかし、企業側にはまだまだ「定年は60歳」という意識が根強く残っています。日本全体としては、少子高齢化が進む中で雇用延長が推奨され、「もっと長く働いてほしい」という方向性ではあるものの、実態としては定年後の再雇用がどこか「おまけ」のような扱いになってしまっている面があります。意欲や能力のあるシニア層を積極的に受け入れるというところまで、なかなかいっていないのが、現在の転職市場の現状です。

私たちとしては、そうした企業側の懸念に対しても、丁寧に説明するようにしています。「だからこそ、インターンシップなのではないですか」と。

小川なるほど。

長尾書類と面談だけで判断すると、「この人は自社には合わないかもしれない」と感じたとしても、実際にインターンシップで一緒に働いてみると、新たな発見があったり、「実はこんなスキルを持っていて、こういう形で活躍してもらえるのではないか」と気づいたりするケースもあります。逆に、書類や面接の印象では「この人は素晴らしい」と思っても、インターンシップで実際に受け入れてみたら、「少しイメージと違ったな」というケースもあるでしょう。

小川なるほど。

長尾つまり、どちらの可能性もあるわけですから、そうしたミスマッチを防ぐという意味でも、企業にはもっと積極的にインターンシップを活用していただきたいと考えています。

小川企業側にも、応募者に対する先入観や偏見があるからこそ、インターンシップ制度が活きてくるわけですね。確かにそうですね。しかし私は、もっと経験豊富な人材を積極的に評価すべきではないかとも思います。

現代社会では、様々な分野でイノベーションが求められています。では、イノベーションはどのようにして生まれるのでしょうか。哲学的に考えると、既存の枠組みとは異なる「異質なもの」、それは新しい考え方であったり、解決すべき問題であったりしますが、そうしたものが出現した際に、それを既存のものとうまく融合させることによって、初めてイノベーションが起こる、という考え方があります。ドイツの近代哲学者ヘーゲルが提唱した「弁証法」という考え方が、まさにこれに当てはまるのではないかと私は考えています。

弁証法が何を意味しているのかを突き詰めて考えると、どのような物事にも、それと対立する要素や、ある種の「厄介なこと」、異質なものが存在するということです。私たちは、そうした厄介なものや異質なものを、つい排除したり、切り捨てたりしたくなります。

長尾そうですね。

小川しかし、それでは本当に新しい価値、すなわちイノベーションは生まれません。そうした厄介なものや異質なものを、いかにして取り込み、活かしていくかが鍵となるのです。日本では、高齢者の存在が、どうしても社会的な「問題」として捉えられがちです。「少子高齢化問題」という言葉の影響もあるでしょう。しかし、決してそうではなく、むしろ、高齢の方々がいきいきと活躍できる社会をいかにして作るか、という視点が重要なのではないでしょうか。

ましてや50代といえば、まだまだ元気で、豊富な知識や経験も持っています。そうした人材を敬遠するのではなく、いかにして組織に取り込み、その力を活かすかが、実はイノベーション創出の鍵を握っているのではないかと、私は考えています。ですから、実際に採用してみると、意外にもそうしたベテラン人材のおかげで地方で新たなイノベーションが生まれた、といった事例が次々と出てくるようになれば、おそらく企業側の理解も進むでしょう。ぜひ、そうした成功事例が生まれるように、積極的にベテラン層をインターンシップで受け入れるような土壌を作っていただきたいですね。

長尾私たちも、特にスタートアップ企業に対して、同様のことをお伝えしています。例えば、経営者が20代のスタートアップの場合、創業当初は同世代の仲間で始めることが多いですが、事業がある程度のフェーズに進み、組織を構築していく段階になると、やはり経験豊富な人材の力が非常に重要になってきます。特に、大企業での経験を持ち、広い人脈や組織運営のノウハウを持つ50代以上の方々は、スタートアップの特定の成長段階において非常に有効な存在となり得ます。しかし、その価値がまだ十分に認識・理解されていないのが現状です。

ただ一方で、おっしゃる通り、50代以上の人材を積極的に活用して成長している企業も実際に存在します。そうした成功事例を広め、ベテラン人材の価値に対する認識を高めていくためにも、今回のインターンシップ事業が役立つと考えています。

小川この点については、特に私自身が50歳になったこともあり、ぜひともお願いしたいところです。(笑)まさに同世代としての心の叫びですね。

しかし同時に、私たち受け入れられる側も、謙虚さを持つ必要があると感じています。私たちの世代はまだそうでもないかもしれませんが、さらに上の世代の方々の中には、「自分たちがこの社会を築き上げてきた」という強い自負をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。それは当然のことですし、事実でもあるのですが、時代が大きく変化していく中で、求められる役割も変化していく必要があります。ですから、自らの知識や経験を活かして、あくまで「専門家としてスタートアップを支える」という姿勢が大切です。自分が前面に出て組織を引っ張ろうとすると、うまくいかないこともあります。例えば、地域コミュニティなどで、引退した企業の役職者がリーダーシップを発揮しようとして、かえって周囲から敬遠されてしまう、といったケースも見られます。

長尾やはり私たちも、インターンを受け入れる企業側から、「(シニア人材が)上から目線に感じられる」という声を聞くことが少なくありません。ですから、おっしゃる通り、私たち50代以上の世代も、謙虚な姿勢を持つことが非常に重要だと痛感しています。

小川そうした心構えについて、インターンに参加される前に研修などは行っているのですか?

長尾はい、まさに今ご指摘いただいたような問題が実際に発生したため、今後は、事前にそうした点に関する研修を行った上でインターン先にご紹介する必要があると感じています。そうしないと、本当の意味での良いマッチングには繋がりません。私たちもこのプロジェクトで既にいくつかのマッチングを手掛けていますが、残念ながらうまくいかなかった失敗事例も経験しています。そのため、事前の研修を行った上でインターンに送り出すプロセスが不可欠だと考えています。

小川そうした点がシステムとしてきちんと整備されれば、これは非常に価値のある取り組みになるという確信が持てますね。結局のところ、この社会人インターンシップという仕組みは、関わる誰にとってもメリットのあることではないでしょうか。

長尾そう思います。

小川地方にとっても、そこで働く個人にとっても、そして受け入れる企業にとっても良い。まさに「三方よし」、いや、四方、五方…とにかく、日本社会全体にとって有益な取り組みだと思います。

長尾そうですね。日本の労働生産性が低下している現状を考えても、こうした取り組みが変化のきっかけになるのではないかと期待しています。

小川そうした中で、私が最も重要だと考えるのは、働く人自身の「生きがい」です。

長尾そうですね。

小川長尾さんも「生きがい」という言葉を使われていましたが、実はこの「IKIGAI」という概念は、今、世界中で非常に注目されているのです。日本語の「生きがい」が、そのまま「IKIGAI」として、一部の人だけでなく、多くの思想家や研究者によって取り上げられ、書籍のタイトルにもなっています。日本人が持つ、生きる喜びや張り合いといった「生きがい」の感覚、そして、それによって長寿であり、人生の最後まで比較的楽しく生きているように見える姿が、欧米などの文化圏から見ると、興味深く、少し珍しいものとして映るようです。健康で長生きするための秘訣といった側面からも注目されています。ですから、この「生きがい」というキーワードを、御社のプロジェクトでももっと前面に出してPRされてはいかがでしょうか。

「生きがい」には、もちろん、人生の喜びや張り合いといった意味合いも含まれますが、私は、もっとシンプルなことだと捉えています。要するに、時間を忘れるほど何かに夢中になって毎日を過ごせるかどうか。それこそが「生きがい」なのではないかと思うのです。そう思いませんか?明日のことや将来のことを過度に心配するのではなく、過去の失敗をいつまでも悔やみ続けるのでもなく、ただ、その日やるべきことに一生懸命取り組む。それだけで、人は十分に幸せを感じられるはずです。

それが「生きがい」の本質ではないでしょうか。もし御社の取り組みが、人々が何歳になってもそうした状態を見つけられるきっかけを提供しているのであれば、それはまさに、世界に誇るべき「生きがい」の創出に貢献する事業と言えるでしょう。

面白いことに、「生きがい」という概念の根源を探ると、日本の伝統的な思想に行き着きます。私なりに、日本思想の中に何かヒントはないかと考えてみたのですが、やはり「禅」の思想が思い浮かびます。禅は、元々は中国から伝わったものですが、日本で独自の発展を遂げ、今や世界に誇る日本の思想となっています。禅における時間の捉え方は、「今、ここ」、つまり現在という瞬間しか存在しない、というものです。未来のことを思い煩わず、過去にとらわれず、ただひたすら「今」に集中する。だからこそ、深い集中が可能になるのです。そう考えると、先ほど私が述べた「生きがいとは、その日一日を一生懸命生きることだ」という定義と、見事に繋がってきます。

そして、そうした生き方が結果として健康や長寿に繋がっているのであれば、それは素晴らしいことですし、人々の充実した職業人生にも繋がっていくことを願っています。ですから、「生きがい」をキーワードとして、御社のスローガンなどに掲げてみてはいかがでしょうか。

長尾私たちも「生きがい」は非常に重要なテーマだと考えておりますので、今のお話を伺って、改めて「生きがい」について深く考え、このプロキャリアという事業が、一人ひとりの人生における「生きがい」を見つけるための一つの手段として、より効果的に機能するように、今後検討していきたいと思います。

小川「生きがい」は、もはや哲学的なテーマです。企業活動の根底にしっかりとした哲学があると、社会的な信頼や共感も得やすくなります。特に「生きがい(IKIGAI)」は世界的に評価されている概念ですので、将来的にグローバルな展開をお考えになる際にも、きっと強みになるのではないでしょうか。

長尾そうですね、おっしゃる通りです。

小川もし、そのあたりで私にお役に立てることがございましたら、ぜひ協力させていただければと思います。よろしくお願いいたします。

長尾ありがとうございます。

小川本日は大変勉強になりました。私ももう少し年を重ねたら、ぜひインターンシップでお世話になりたいと思います。(笑)本日は、誠にありがとうございました。

長尾こちらこそ、ありがとうございました。